恋にお寿司に音楽に

棺桶には寿司とCDと愛を入れてください

副流煙

 

 

あのさ、もう言うわ。


あのさ、電車の中でさ、まぁ朝仕事行く時とかさ座りたいじゃん?


でさ、立ってるじゃん?

 

そしたらさ人が多く降りる駅の時降りそうな奴の前狙って立つじゃん。

 

育てるじゃんその目の前の席をさ。

 

 


ここまでわかる?

ここでわかんなかったら置いてくからね。

 

 

で、いざターミナル駅着いたとき横の奴の目の前の席が空いたとするじゃん。


それさ、座らないやついるじゃん?

 

いやいいんだよ?

 

座るか座らないかは自由だからさ。

 

でもさ、座らないのにそこにいられると他の人が座りづらいから邪魔になってるのなんでわかんないの?

 

いやお前座らないならスッとズレろよ!

 

なーに「僕、座りませんから」みたいな顔しやがってよ。


調子に乗んなってまじで!

 

 

そこそこ人多いのに謎の“一駅区間遠慮の塊席”が空いてんのよ。


みんな座りたいけど気まずいし、もう走り出したら座りづらいのよ!

 

イキんなって!健康自慢かよ!いいよそれ!

座れよ!じゃなきゃズレろよバカタレが!

 

こんスカタンが!!!

 

 

 

 


……………………

 

 

 

 

 

 

それが彼女の生前最後の言葉だった。

 

目の前に上る線香の煙の奥で笑っている君を見ていると、どうもまだ君が何処かで生きているんじゃないかと錯覚してしまう。

 

 

四角い額縁に写る君はまるで時が止まったように笑顔で、あの頃と同じく少し見える八重歯が今日は俺の心に突き刺さる。

 

 

 

焼香を終えると俺は一服するため外へ出た。

 


しかし調子が悪いのかライターのつきが悪い。

 

俺は笑いながらタバコをくしゃっとポケットにしまった。


あぁ、そうだったね。

 


「君はタバコが嫌いだったね。」