『
「そこの車、止まりなさい!!」
けたたましいエンジン音を鳴らしながらものすごいスピードで赤信号の交差点を直進する真っ黒いミニバンを追いかけるパトカーの中で青年がマイクに向かって怒号を飛ばしている。
地獄のような圧迫面接を終えてトボトボと歩く俺はそんな光景をみて、なんてこの世界は平和なんだろうと思った。
ポケットに忍ばせたカロリーメイト チョコレート味を一口齧るとその瞬間、全身にピカチュウ10万ボルトよろしくの衝撃が走る。
「う…ここは…」
目を覚ますとそこはウサイン・ボルトのトレーニングルームの休憩室だった。
まだ状況もつかめず意識朦朧の中でぼんやりと辺りを見回す。
カーキ色の西洋人形がその不気味な眼をこちらに向ける。
再びウサイン・ボルトの方に目を向けると、その目玉はまるで縁日のスーパーボールのように飛び出して異国人の俺でも驚いていることが容易に想像できた。
「oh japanese!?」
ウサイン・ボルトは原液カルピスをロックで飲みながら言った。
「隙あり!!!」
俺はウサイン・ボルトの喉元めがけてサイゼリアのフォークをぶち投げた。
「…Oh my gush!!!」
ぎゃあぎゃあと叫び散らかすウサイン・ボルトは自らの喉に刺さったサイゼリアのフォークを震える手で抜くと血しぶきと共に床に倒れ込んだ。
「チッ、血ィこんなにこぼしはって、ごっつい汚いで。あきませんやんボルトはん、アンタは地上最速の男と呼ばれとったみたいやけど、これじゃまるでナメクジやね」
俺はエセ関西弁で捨て台詞を吐き出すとウサイン・ボルトが飲み残した原液カルピスのロックに炭酸を加えウサイン・ボルトの足にかけてあげた。
……
以上が銀だこ 東京ソラマチ タベテラス店の厨房に残された犯人と思わしき人物の手がかりである。
このメモがこの“江東区全ファミーマート爆破事件”の事件の解決に役立てられれば幸いである。』
私は記事を書き終えすぐに本社に送るとゆずチューハイを一口飲み込みパソコンの画面を消した。
真っ黒になったパソコンの画面に映る自分を見て「歳なんてとりたくないっつーの」と言い終わる前にもう一口ゆずチューハイを口へと流し込んだ。